今や、がんは日本人の2人に1人がかかり、3人に1人が命を落とすと言われています。
がん治療は年々進歩を遂げていますが、最近大きな注目を集めている治療薬があります。
それは「免疫チェックポイント阻害薬」です。
この薬はいわゆる免疫療法の一種ですが、劇的な効果を上げていて、他に治療法がなかった患者にも大きな成果を上げています。
そこで、この「免疫チェックポイント阻害薬」について、わかりやすく解説したいと思います。
目次
免疫チェックポイント阻害薬とは?
免疫チェックポイント阻害薬はどういった仕組みでがん治療に効果をもたらすのでしょうか?
人間の体内では、毎日がん細胞が誕生しているというのを聞いたことがあると思います。
にもかかわらず、がんにならないのは、免疫細胞ががん細胞をやっつけてくれるからです。
しかし、何らかの原因で免疫細胞が攻撃を辞めてしまうと、がん細胞が増え、がんが進行してしまいます。
実は、免疫細胞にはがん細胞の攻撃をストップさせるブレーキボタンが存在します。
がん細胞は、このブレーキボタンを押すことで免疫細胞に反撃します。
すると、免疫細胞は攻撃を止めてしまい、結果的にがん細胞が増殖してしまうのです、
免疫チェックポイント阻害薬は、ブレーキを押そうとするがん細胞からブレーキボタンを守ります。
その結果、免疫細胞の攻撃力が復活し、がんを退治してくれるのです。
これが免疫チェックポイント阻害薬が画期的な治療薬だと言われるゆえんです。
免疫チェックポイント阻害薬誕生の経緯
がん治療の常識を覆すと言われる免疫チェックポイント阻害薬ですが、そもそもは日本人研究者が誕生のきっかけとなりました。
その人物とは、日本を代表する免疫学者・本庶佑さんです。
本庶さんは20年以上前、免疫細胞を研究中に「PD-1」という役割がわからないタンパク質を発見しました。
そこで、遺伝子操作によって、このPD-1がないマウスを作り、経過観察しました。
すると、PD-1がないマウスは、免疫細胞が暴走し、正常な細胞まで攻撃してしまったのです。
この研究結果から、PD-1は免疫細胞を制御するブレーキの役割を持つ物質である事を明らかにしたのです。
PD-1が免疫細胞のブレーキであるなら、その働きをうまく使えば、がん細胞と戦うことができるかもしれない。
それが、免疫チェックポイント阻害薬開発の始まりでした。
免疫チェックポイント阻害薬は従来の免疫療法とどこが違う?
免疫細胞の攻撃力を使ってがん細胞をやっつけようという療法は、ずっと前から研究されていました。
しかし、期待されたような効果はほとんど上げられませんでした。
従来の免疫療法は、免疫細胞の力を高めるというもの。いわば、アクセルをふかすやり方です。
一方、本庶さんが研究を進める免疫療法は、がん細胞に免疫細胞のブレーキを踏ませないという方法。
両者のアプローチは全く異なるため、製薬会社に話を持ちかけても反応は冷たいものだったと言います。
しかし、本庶さんは諦めず、アメリカの研究者とベンチャー企業の協力を仰ぎ、免疫チェックポイント阻害薬を完成させたのです。
免疫チェックポイント阻害薬の効果
すでに説明したとおり、免疫チェックポイント阻害薬は免疫細胞にがん細胞をやっつけさせる手助けをするものです。
したがって、手術などでがんを取り除けない人にも使え、実際に効果が上がっています。
末期がんで手の施しようのない人が、この免疫チェックポイント阻害薬を使うことで、がんが縮小し、生きながらえているというケースも数多く報告されています。
免疫チェックポイント阻害薬が効くがん
免疫チェックポイント阻害薬はどんながんに効くのでしょうか?
効果があるがん
・メラノーマ(皮膚がんの一種)
・肺がん
・腎臓がん
・ホジキンリンパ腫
効果が少ないがん
・すい臓がん
・前立腺がん
・大腸がん
効果のある可能性があるがん
・卵巣がん
・胃がん
・乳がん
※上記のがんでは、臨床研究が進められています
ホジキンリンパ腫は非常に効きやすいといわれ、9割の患者さんで効果があったという報告もあります。
一方、メラノーマ、肺がん、腎臓がんでは、約2〜4割ぐらいの患者さんで効果があると報告されています。
2〜4割というと、低い数字と思うかもしれませんが、他の治療法が全く効果がない患者さんに対しての数字なので、劇的な効果があるとも言えます。
免疫チェックポイント阻害薬の副作用
ということで、いいことずくめのようにみえる免疫チェックポイント阻害薬ですが、問題もあります。
それは副作用です。
免疫チェックポイント阻害薬には、通常の抗がん剤とは全く異なる副作用があります。
免疫チェックポイント阻害薬は免疫反応を高めることによって、がんを攻撃するというしくみですが、注意したいのは、チェックポイントの働きです。
そもそもチェックポイント分子は、免疫細胞が暴走しないように働いている分子であるため、そのブレーキを外すと、免疫細胞が暴走します。
その結果、副作用が起きてしまうのです。
免疫チェックポイント阻害薬は、メラノーマ(皮膚がん)に効果を示しますが、一方で、免疫系の過剰反応を引き起こす可能性があります。
そのため、治療では10人に1人くらいの割合で重篤な副作用が出ると言われています。
頻度は高くないが重篤な副作用
・膠原病
・リウマチ
・間質性肺疾患
・重症筋無力症
・1型糖尿病
・肝機能障害
頻度が高い副作用
・リンパ球や白血球の減少
・下痢
・疲労
・白斑、皮膚の色素減少
・皮膚の掻痒感
免疫チェックポイント阻害薬の費用
さて、やはり気になるのは、治療費でしょう。
免疫チェックポイント阻害薬はどれくらいの費用がかかるのでしょうか?
免疫療法は一般的に標準治療として認められた治療法でないため、通常は公的な保険は適用されません。
しかし、現在は、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が標準治療で使えるようになりました。
「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」という条件付きですが、健康保険も適用されます。
オプシーボは当初、薬代がとんでもなく高額だったことで話題になりました。
体重50kgの人が1回点滴投与すると、73万円、仮に毎月1回投与すると、1年で876万円。
薬代以外の費用を含めると、1000万円以上かかります。
しかし、保険が使えれば、高額療養費制度があるので、年間100万円以下で治療を受けることが可能になりました。
現在、オプシーボは以下のがんで保険が適用されます。
・非小細胞肺がん
・腎細胞がん
・悪性リンパ腫
・肺腺がん
免疫療法の中には、オプシーボの他にも公的保険が適用される薬もあるので、専門の医療機関で相談するといいでしょう。
免疫チェックポイント阻害薬の課題
がん治療の救世主とも言われる免疫チェックポイント阻害薬ですが、今後に向けて、いくつもの課題があります。
ひとつは、がんの種類によって効果がまちまちなこと。
肺がんには効きやすいが、大腸がんには効きにくいなど治療効果にばらつきがあるのです。
また、効く人と効かない人の個人差もあり、治療してみないと効果はわからないという難点もあります。
そして、重篤な副作用の可能性があることにも注意が必要です。
治療費もネックです。
保険が効くのは、一部の免疫チェックポイント阻害薬に限られ、誰でも受けられるわけではないのです。
ということで、様々な課題を抱える免疫チェックポイント阻害薬ですが、他に治療法がない人にとってはまさに夢の薬である事は間違いありません。
今後さらに研究が進んで、より効果の高いものができることを願いたいですね。
こちらの記事もおすすめです!